『やまなし』クラムボンとは何か──意味を決めない言葉が伝えるもの
▶ YouTubeで見るやまなし|クラムボンってなに?【考察】『やまなし』は、こんな一文から始まります。
小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。
そして、すぐにこの言葉が出てきます。
クラムボンはわらったよ。
クラムボンとは、いったい何なのでしょうか。
宮沢賢治は、答えを教えてくれません。魚でも、虫でも、神さまでもない。それでいて、この物語の中でいちばん記憶に残る言葉になっています。
「わらう」から「死んだ」への急な変化
蟹の子どもたちの会話は、こう続きます。
クラムボンはわらったよ。 クラムボンはかぷかぷわらったよ。
「かぷかぷ」という響きが、なんとも不思議です。何を指しているのかは分からないのに、楽しそうな空気だけが伝わってきます。
ところが、すぐあとに空気が一変します。
クラムボンは死んだよ。 クラムボンは殺されたよ。
笑っていたはずのクラムボンが、急に死んでしまう。 しかも「死んだ」だけでなく「殺された」とまで言われます。何が起きたのか、本文ははっきりと説明しません。
正体をめぐる、いくつもの読み方
クラムボンの正体については、昔からさまざまな説があります。
- 泡(水の中に生まれては消えていく泡そのもの)
- プランクトンなど、蟹の目には見えにくい小さな生きもの
- 蟹の子どもたちだけに聞こえる、なにか別の生きものの気配
- 意味を持たない、音そのもの
どれも「これが正解」と言い切れる決め手はありません。賢治は、あえて正体を隠したまま物語を進めたとも読めます。
注目したいのは、「かぷかぷ」という音です。この物語には、ほかにも「ぷくぷく」「ぽっぷりぽっぷり」など、水の中の気配を表す音がたくさん出てきます。クラムボンも、その仲間の一つとして——意味というより、響きとして——置かれているのかもしれません。
意味を決めないことで、自由になる
もし「クラムボンは○○です」と正体が一行で説明されていたら、この物語はずいぶん違う手ざわりになっていたはずです。
正体が分からないからこそ、読む人それぞれが、自分なりの「クラムボン」を思い浮かべることになります。「なにそれ?」と首をかしげるのも、「笑っている音みたいだ」と感じるのも、どちらも物語の受け止め方として間違いではありません。
そして物語の最後、クラムボンはもう一度笑います。
死んで、殺されて、それでも笑う。消えたはずのものが、また現れる。 この行ったり来たりの中に、「やまなし」という物語全体を貫く空気――生きて、消えて、また生まれてくるという水の中の時間――が、すでに小さく畳み込まれているように読めます。
子どもと話してみたい問い
正体を当てさせる必要はありません。「分からなさ」を一緒に楽しむくらいの気持ちで聞いてみてください。
| 問い | 引き出せるもの |
|---|---|
| クラムボンって、何だと思う? | 自由な想像。正解はない |
| なんで「かぷかぷ」っていう音だと思う? | 言葉の響きへの気づき |
| 笑っていたのに、なんで急に死んじゃったんだろう? | 物語の急な転換への気づき |
| もし自分がクラムボンだったら、どんな気持ちかな | 物語への感情移入 |
「分からないから面白い」という感覚を、そのまま持ち帰ってもらえたら十分です。
この記事は、YouTube「おわか文庫」の考察動画をもとに書いています。あわせて「五月と十二月、光といのちの対比」、「命はめぐる」もどうぞ。
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