『少年とクスノキ』(東野圭吾)──未来が見えたら、不安はなくなる?
▶ YouTubeで見る【東野圭吾】 5分で分かる『少年とクスノキ』|未来が見えたら、不安はなくなる?「未来が見えたらいいと思わない?」
弟のハルンが、そう言いました。これからうまくいくと分かっていれば、安心できるから、と。
その気持ち、よく分かります。先のことが分からないから、私たちは不安になる。 だったら、先が見えれば不安は消えるはずです。
けれど、姉のミアはこう聞き返しました。
でも、未来の自分も、まだ答えを探していたらどうする?
今回読むのは、東野圭吾さんの絵本『少年とクスノキ』。まさに、その問いをまっすぐ描いた物語です。
⚠️ この記事には、物語の結末に触れる内容が含まれます。まっさらな気持ちで読みたい方は、本を読んでからお戻りください。
東野圭吾さんが、はじめて子どもに向けて書いた絵本
東野圭吾さんといえば、ミステリー小説で知られる作家です。その東野さんが、はじめて子どもに向けて書いた絵本が、この『少年とクスノキ』です。
絵を描いたのは、よしだるみさん。深い森と大きなクスノキが、静かな光の中に描かれています。
少年が、未来を怖がるようになるまで
物語の主人公である少年には、つらい出来事が続きます。そして、大切な人たちを失ってしまいます。
悲しみのあとに少年の心に残ったのは、こんな気持ちでした。
——これからも、また悪いことが起きるのではないか。
少年は、未来を怖がるようになります。
そんな少年に、ひとりの旅人が不思議な話を教えます。未来を見せてくれるという、クスノキの女神の話です。旅人は、道しるべになる一本の棒を少年に渡しました。
少年は旅に出ます。砂漠を歩き、いくつもの困難を越えて、深い森の中の大きなクスノキへたどり着きました。
それほどまでに、少年は未来を知りたかったのです。未来さえ分かれば、もう怖がらなくてすむと思ったから。
クスノキの女神が見せた「未来」
少年は女神に願います。自分の未来を見せてほしい、と。
きっと、幸せに暮らしている自分が見えるはずでした。ところが、女神が見せた未来は、少年が思っていたものとは少し違っていました。
未来の少年もまた、旅人から渡された棒を握って、今と同じように答えを探し続けていたのです。
十年先を見ても、その先を見ても。未来の自分は、同じ棒を握ったまま、さらに先の未来に答えを求めていました。
なぜ、女神はその未来を見せたのか
ここが、この絵本のいちばん静かで、いちばん深いところだと思います。
少年は、未来のどこかに「どう生きればよいか」の答えがあると思っていました。今は分からなくても、十年後の自分なら分かっているはずだ、と。
けれど女神が見せたのは、どこまで先へ行っても、答えを探し続けている自分の姿でした。
それはきっと、こういうことなのかもしれません。
答えを未来に探し続けても、答えは見つからない。
女神が見せた未来は、少年を安心させるための答えではなく、今を見つめ直すためのものだったのではないでしょうか。
少年が最後に気づいたこと
物語の終わりで少年が気づくのは、遠い未来にある答えではありません。
今日、自分が生きていることのありがたさです。
未来ばかりを見ていたから、今ここにあるものが見えなくなっていた。 少年が本当に探していたものは、ずっと先ではなく、足もとにあったのかもしれません。
未来が分かれば、不安はなくなるのでしょうか。それとも、大切なのは、今をどう生きるかなのでしょうか。
この絵本は、答えを教えてはくれません。けれど、読んだあとに、静かな問いが残ります。
親子で話してみたい問い
読んだあと、お子さんとこんなふうに話してみてください。正解を決めなくて大丈夫です。
| 問い | 引き出せるもの |
|---|---|
| 「未来が見えたら、不安はなくなると思う?」 | その子なりの、未来への向き合い方 |
| 「少年は、未来に何を探していたんだろう?」 | 物語の中心にある問い |
| 「女神は、どうしてあの未来を見せたのかな?」 | 行動の奥にある意味を考える力 |
| 「今日、うれしかったことは何かある?」 | 「今」に目を向ける時間 |
最後の問いは、物語から少し離れて見えるかもしれません。でも、少年が最後にたどり着いたのは、まさにそこでした。
作品情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 少年とクスノキ |
| 文 | 東野圭吾 |
| 絵 | よしだるみ |
| 出版社 | 実業之日本社 |
みなさんは、未来が見えたら、不安はなくなると思いますか。
動画では、ミアとハルンが会話をしながら、この物語をたどっていきます。あわせてご覧ください。
← 読み深め